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プロフィール
HN:
秋本 勇
性別:
非公開
職業:
事務・設計
趣味:
ひたすら読書
自己紹介:
はたして事務なのか、はたして設計なのか?!
よく分からない状況の中で働きつつ、したためた小説をここで紹介しています。
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「別れてやる」

―あぁ、また始まったわ。困るとそれだもんね。

「今回は本気だ。お前なんか俺に必要ないんだ」

―その台詞だって何度も聞いてるわ。

「お前だって別に俺のことなんか気にしちゃいないんだろ」

―そんなことないわよ、って何度私が説明してると思うの。

「いつもいつも冷めた目で俺のこと見やがって」

―冷めた目で見させているのはそっちのほうでしょ。

「本当はバカにしてるんだろう。俺なんかろくな男じゃないって」

―本当にそう思ってるの?私があなたを?

「何か言ったらどうなんだよ。お前はどう思ってるんだよ」

―何か言ったらどうって?私はどう思ってるって?

「何とか言えよ」

―私は……

「私は……あなたが嫌いよ」

―あぁ、それもいつもの口癖。
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どこかからクラリネットで聞いたことのある旋律が流れてくるのを静かに聴いていた。
「ドヴォルザークの家路……」
一緒にその音色を少し口ずさんでから、思い出したその曲名をつぶやくとクラリネットの音色も消えた。と同時に、草原からひょこりと何かが姿を現したのに気がついた。
「あっ……」
お互いに気まずい声と沈黙。そこにいたのは、通っている高校の同級生で吹奏楽部に所属している女子だった。
「家路、好きなの?」
少しの沈黙の後、俺が尋ねると彼女ははにかむように笑って一つ頷いた。その可愛らしい笑顔に、少し胸が高鳴るのを感じた。
「吹奏楽部でやるの?」
その問いに、彼女は首を横に振る。そこで、クラスメートの噂話で彼女が幼い頃から音楽教室に通っていることを思い出した。
「じゃあコンクールの課題とか?あ、合同演奏会みたいなやつとか?」
コンクールの課題には首を横に振り、合同演奏会に彼女がにこりと微笑む。俺たちの住む地区では、よく他の地区と合同で演奏会が行われたりしている。何故そんなことを知っているのかというと、俺も中学時代に吹奏楽部に所属していて、その合同演奏会に参加したことがあったからだった。
「俺も家路好きなんだ。でも、演奏会でやるなんてレベル高いんだね」
それに対して彼女は少し困ったように笑った。皮肉のように聞こえたのだと気づいて慌てて、
「いや、俺も中学のときに吹奏楽やってたんだけどさ、レベル低くて……大会なんて銀賞すら夢の夢なんてとこでさ」
と頭をかいて笑った。彼女はどう答えたものか少し考えたようだったが、自分の持っていたクラリネットをこんこんと指先で少したたいて見せた。どうやら、俺もクラリネットをやっていたのかとたずねているらしい。
「俺の楽器?」
すると彼女は先ほどと同じようににっこりと笑った。
「あ、俺は木管じゃなくて金管だったよ。トランペットに憧れて入ったんだけど、向かないからってチューバにまわされたり、トロンボーンやったり。色々やったけど、結局どれも中途半端だったなぁ」
だから高校になって吹奏楽部に入る気にはなれず、ほぼ帰宅部となっている正体不明の写真部に入部していた。
 そこまで話すと彼女は寂しそうな顔をして一瞬俺を見て、少ししてからまた「家路」を吹き始めた。とてもとても優しくて静かな音色。リードミスのあるところに彼女のちょっとした隙を見てほほえましく思う。
「ミサキ」
ふとそんな声がしたのに気づいて、俺と彼女は後ろを振り返った。そこには、やわらかい猫っ毛を茶色に染めた二十代後半くらいの男が立っていた。服装は白い半襟のシャツにジーンズ姿で、俺よりずっと長身で優しげな男だった。
「そろそろ帰ろう。お母さんが待ってたよ」
男はそういって座り込んでいた彼女へ白い手を差し出した。彼女は少し頬を赤らめて、少し躊躇してからクラリネットを持っていた手と反対の手で彼の手を取った。草むらに置いてあった麻のトートバッグと革の通学バックは彼が何も言わずに取った。
「クラスメートの子?」
俺に優しい目を向けた彼は、彼女にそう尋ねて微笑んだ。彼女がうなずくのを待って、
「こんばんは。君がいてくれて助かったよ。このあたりも少し物騒だから外で練習するのはやめてほしいんだけど、ミサキが気に入ってるからなかなかとめられなくて。これからも一緒にいてくれると助かるんだけど」
「……いや、今日はたまたま居合わせただけで……」
口ごもった俺に、
「そうだったんだね。でも時々遊びに来てくれるといいよ。彼女の演奏、なかなかだったろう?」
大人の余裕を見せた。
「じゃあ、また会う機会があったら」
二人が草むらから遠ざかるのを待って、俺はすっくと立ち上がった。きらきらと夕焼けのオレンジに輝いた川が足元に見えていた。それから無理やり目を引き剥がして振り返っても、二人の姿はなかった。
「帰ろう 帰ろう 家路へと……」
そこまで歌って、歌詞を思い出せず彼女のクラリネットの音色を真似るように俺は口笛を吹きながら家路についた。
オレンジの夕日が、家路を照らし出していた。
「ねぇー、見て!綺麗な三日月!」
彼女がはしゃいで指差した先に、まるでチェシャ猫がこちらを馬鹿にして笑っているような三日月がぽつんと浮かんでいた。
僕は月があまり好きじゃない。いつでも姿を変えずに、すべてを照らし出す太陽のほうが割かし好きだ。
「綺麗だね」
でも、付き合い始めたばかりの彼女に合わせて相槌を打つと、彼女はきょとんと僕を振り返って見つめてきた。
「何?」
「ううん。私、てっきり月は嫌いなんだと思ってたから」
「……」
思わず本当のことを言われてびっくりした。何で分かったんだろう。
「前、太陽は姿を変えないから好きだって言ったことがあったでしょ?あれって、意味をひっくり返せば姿を変える月は嫌いってことかなって」
くす、と彼女は笑って空を見上げた。そんなことまで覚えていたのか、と少し驚く。
「でもね、太陽があるから月もあるんだよ」
思わず見とれていた彼女の銀色の横顔が急にこちらを振り返ったのに面食らって目を丸くすると、その様子がおかしかったのか彼女は少し笑ってまた三日月を見上げた。
「月は太陽の光を浴びることで綺麗に輝いて見えるでしょう?自分で光ることのできない月は、太陽の光で美しく輝いているんだもん。それってとても素敵なことじゃない?」
少し前に、天体観測に行ったという彼女がそう言うのを僕は少し微笑んでみていた。彼女らしい言葉だった。
「だから、私は月。で、あなたは太陽!」
両腕を広げてくるくるっと踊るようにステップを踏み、彼女が僕の腕に絡み付いてきた。ふんわりとした優しい彼女の感触が右腕に広がり、幸せな気分が心の中に満ちていく。
「いつまでも、私を照らしててね……」
少し寂しそうに彼女は微笑んだ。その顔が三日月の銀色に染められて美しくも儚く見える。
きっと、彼女は気づいている。

新月も、
太陽が月を照らすことができない日も、訪れるということを。

失恋して、わぁーっと泣いて、さあ次の恋を探さなくちゃと前向きになるのが早いのは女の特性。

女は、涙の後はすがすがしい。
「きっとね、涙と一緒に悪いものが外に出るのよね。だからすっきりするのよ。心の老廃物を出すわけ」

泣きたいのを我慢して我慢して、我慢する場合もある。
「ここで泣いたらいけないってこと、あるでしょう。泣きたいけど、泣けないのよ」

それが意外にも、もろく砕け散ってあっさり「泣く」引き金を引かれることもある。
「泣きたいな、でもここでは泣けないよな。そんなときに、泣いてもいいんだよ、泣きなさいよ、って泣きたいことを分かってくれてる人に言われると、弱いのよね」

泣きたい気分じゃないときに、思わず泣けることもある。
「こんなことじゃ泣かないわよ、なんて思ってると悔しくて泣いてたりするのよ。本気で怒ったときとかね。たぶん、怒ってる自分が悲しくて泣くのよね」

じゃあ、涙の終わり。もし、女が泣くことを忘れたら、いったいどうなるんだろう。

「きっと、恋の終わりを認識できなくなるわね。どんなにすがすがしく、すっきりと別れたにしたって、きっと後悔して女は泣くのよ。涙が終わったときにね、誰のために流した涙か、どんなもののために流した涙かで女の価値って決まると思うの。本気で愛した人のために、その人を想った涙なら、終わった涙も綺麗だと思うわ」

その涙が零れ落ちた後には、綺麗な貴女が待っている。

「さよなら……」

その一言が痛くて苦しかったころからだいぶ時間が過ぎて、私たちは笑顔でまた再会できるくらいになった。

「彼女できた?」
「いや、まだできとらん」
「そ」
「お前は彼氏できた?」
「私もできとらん」
「ふぅん」
「会うたびその話しかしとらんし」
「あはは」
彼は就職して、私は大学四年生になって、どちらもそこそこ友達を作ってよくやっている。別れてすぐは顔を合わせるのも嫌だったはずなのに、二十歳になって初の同窓会で再会して、酔って意気投合して二人で泥酔して、そのまま何もないまま今に至る。
でも、不思議ともう一度付き合ってみようとは思わない距離。

「気になる人はいるよ」
彼はにこっと笑ってあさっての方向を向きながら言った。彼の照れ隠しのときによく使う手だった。
「同じ職場の人?」
「そ。事務やっとる人」
「ほー。どんな人?」
「うーん……俺たちよりひとつ下やけど、しっかりしとるよ。覚えも早いし、可愛い」
「へぇ。告白の成功率は何パー?」
「さぁなぁ……彼氏がおるかも訊いとらんし」
「なんじゃそりゃ」
「俺らしないて?」
「うん」
あはは、と笑う声が夕方の空に消える。彼が自転車を押して歩く姿は、付き合っていたころより少したくましく成長している。その横を歩く私は、あのころから何か変わっているのかな、と思う。
「まぁ、お前が頑張ってー言うてくれたら、訊いてみよ」
「はぁ?なんで」
「なんやかんや言って、お前の後押しが一番効くから」
「しゃぁない男」
ぱん、と肩をたたいて豪快に笑い飛ばしてから、
「頑張れ」
と親指を立てて見せると、彼は笑って、
「おう」
と同じようにぐっと親指を立てて見せた。

私たちの恋は、思い出の彼方で綺麗に浄化されて、戻ってきた。
最高の友人として、再会するために。
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